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近年、個人の考えや家族の形への価値観が多様化している中、選択肢の一つとして「事実婚」を考える夫婦が増えてきています。
とはいえ、日本ではまだ多くの人が、結婚をして当たり前といった考えが根強くあります。その為、事実婚に対する理解が低く「事実婚を選びました」と伝えても、なかなか理解してもらえないことが現実なのではないでしょうか?
そこで、事実婚の定義や法律婚との違い、事実婚のメリット・デメリットまでわかりやすくご説明いたします。
事実婚を選ぶ前にチェックしておくべき点もまとめましたので、事実婚を考えているお二人は、ぜひ参考にしてくださいね。
目次
事実婚とは?
そもそも事実婚とはどのような状態を指すのでしょうか。事実婚についてご説明します。
事実婚とは、双方が結婚の意思を持ちながら生活を営んでいるものの、入籍の届け出をしていない状態のことで、内縁関係ともいわれます。
事実婚は法律婚の対になる婚姻関係ですが、同居や扶養義務などの責任を果たし、法的に入籍をした男女と同等の夫婦関係が認められた場合には、法律婚と同程度の保護を受けることが可能です。
事実婚の定義・事実婚の意味とは?
事実婚の定義は「お互いに婚姻の意思を持って夫婦として生活をしている」ことです。
事実婚には、以下の条件が挙げられます。
- 婚姻の意思を持っている
- 共同生活をしている
- 公的手続きに表明している
- 二人の間の子どもを認知している
- 住民票が同一世帯である
同居している期間に関わらず、これらをより多く満たしていることで事実婚と認められます。職場関係や友人、親戚などにも夫婦として認識されていることも条件の一つでしょう。
事実婚は、生計を共にし夫婦同様の共同生活をしていることが重要です。夫婦生活の実体がなければ、たとえ結婚の意思があっても事実婚とは認められません。
また、事実婚の認定に必要な「同居期間は何年」という定義はありませんが、ある程度の継続性は必要です。一般的にいわれることの多い、3年程度を目安にしておくと良いでしょう。
事実婚と内縁関係は同じ
事実婚とは「夫婦としての実質はありながら、法律上の届け出をしていない男女の関係」を指します。また、内縁関係も基本的に事実婚と同じ意味であると言えます。
法律上、籍が入っているかどうかだけで、それ以外は婚姻している夫婦と変わらない実体があることを事実婚、または内縁の関係といいます。
また、事実婚は「婚姻に準ずる関係」として、法律婚と同じような夫婦としての権利と義務が認められています。
事実婚と法律婚との違いとは?
事実婚と法律婚の大きな違いは、婚姻届を出しているかどうかです。その他にも、戸籍の表記や子どもができた場合、相続の面で違いが出てきます。二つの違いを見ていきましょう。
公的な手続きの面
法律婚であれば、各種控除や税金の免除がありますが、事実婚は配偶者控除が適用されません。
戸籍上
婚姻届を提出せず入籍しないため、夫婦別々の戸籍となり、夫婦別姓を名乗ります。
子供の扱い
出生後の戸籍の扱いが違います。法律婚は、自動的に二人の子供となりますが、事実婚の場合は、母親の籍に入ることとなります。父親の姓を名乗る場合や、父親の認知を受けるためには、それぞれ違う届け出をする必要があります。
相続
事実婚では、遺言書の作成をしない場合、相続においての権利がありません。子供が認知されている場合であれば、子供に相続権は認められます。
事実婚は、法律上の夫婦と認められている場合と比べて、配偶者控除が受けれないことや子供ができた場合の手続きが多いことがわかりました。
それ以外は、一定の証明ができるものを用意したり、遺言書の作成をしておくなどで、カバーできる部分もあります。作っておくべき証明等に関しては、以下に続く項目で詳しく説明いたしますので、そちらをチェックしてくださいね。
事実婚を選択する理由とは?
日本では一般的とされている、婚姻届を出すことで成立する法律婚。ですが、あえて事実婚を選ぶ夫婦は、一体どういった理由からその選択を取るのでしょうか。その理由はさまざまです。
夫婦どちらかの姓を名乗ることへの違和感や、法律婚は、夫婦を証明するだけのものでしかないと感じている方もいらっしゃるでしょう。また、離婚を経験したことで籍を入れることに抵抗感があるなど、これ以外にも多くの理由があるでしょう。
子供がいる場合であれば、子供の気持ちを考慮して、籍を入れない事実婚を選んだという理由もありますよね。これからご紹介する「事実婚のメリット」は、事実婚を選ぶ理由でもあると言えます。
事実婚のメリット
入籍をしない事実婚を選んだ場合、どういったメリットがあるのでしょうか?
夫婦別姓が叶い、各種変更手続きが不要である
婚姻届を提出する事実婚の場合、夫婦どちらかの姓を名乗る必要があります。姓を変えるどちらか一方が、それに伴った変更手続きを行うこととなります。
事実婚は戸籍を変更する手続きがないため、生活におけるあらゆる名義の変更が不要となります。氏名の変更が必要な例を確認していきましょう。
【名義変更が必要な手続きの例】
- 住民票
- マイナンバー
- 免許証
- 健康保険
- 年金
- 銀行講座
- クレジットカード
- 生命保険の契約者や受取人
- 携帯電話
- パスポート
- 保有している資格
- インターネット
など、これだけの手続きが必要となります。この他にもいくつかの手続きはありますが、事実婚であれば、これら全ての変更手続きが発生しません。どちらか一方だけが、手続きによる負担を強いられることがないことも、事実婚のメリットでしょう。
親族との付き合いなどを気にしなくてよい
相手の戸籍に入る法律婚と違うため、親族との絡みやしきたりなどに縛られにくいと言えます。入籍しているわけではないので、お互いの関係性が平等であるため、一定の距離感を保って付き合うことができるでしょう。
法律婚とほぼ同様の権利や義務が得られる
事実婚はある一定の証明を交わしておけば、法律婚とほぼ変わらない権利や義務が得られます。主に以下のような義務や権利を得ることができます。
- 同居・扶養の義務
- 婚姻費用の分担
- 財産分与
- 不貞行為や生活費慰謝料の請求
- 遺族年金の受給
- 養育費を請求(子どもを認知している場合)
法律婚とほぼ変わりない権利が受けられるといっても、前途の通り「一定の証明」が必要であるということが重要です。一定の証明がなにかについては、次の項目で詳しく説明していきます。
関係を解消しても戸籍に残らない
事実婚は、法律上交わす書類はありませんので、関係を解消したとしても戸籍に残ることはありません。法律婚であれば、戸籍上に「離婚」の履歴が残りますが、事実婚であればいわゆるバツが付くことはありません。
事実婚を認められやすくする為に必要なこと
上記で挙げたように、事実婚は法律婚と変わらない権利や義務が発生することは述べましたが、いずれも「一定の証明」が必要となります。
事実婚を認められやすくするためには、以下のことを準備しておきましょう。
住民票の続柄の表記
住民票の記載は、同一世帯の場合「同居人」と記載します。ですが、事実婚を証明したい場合は「夫(世帯主)」「妻(未届)」と記載してもらいましょう。
結婚式を行う
事実婚であっても結婚式を挙げることはできます。両親や親族、会社、友人たちにも事実婚であることを報告しましょう。周囲が夫婦として認識していることや、結婚式を挙げた事実が証明となります。
事実婚でのデメリット
法律婚とほぼ変わりない義務や権利があるとお伝えしてきましたが、法律上の夫婦である方が有利である点がいくつかあります。事実婚の場合、考えられるデメリットをご説明していきます。
所得税・住民税などの控除等が利用できない
事実婚で、健康保険の扶養に加入するには、事実婚を証明しなければいけません。法律婚であればスムーズな手続きが複雑となります。
また、配偶者控除はいずれも適用されない為、法律婚であれば減額され税金が減る制度が適用されず、法律婚より支払う額は高額となってしまいます。医療費控除も同様に受けることができません。
子どもの籍は自動的に母親側に入る
二人の間に子どもが産まれた場合、自動的に子どもは母親の籍に入ります。父親が認知しない限り、父子関係が認められず、法律上は他人となってしまいます。
認知届を出した場合でも非嫡出子(婚姻関係ない夫婦から生まれた子供のこと)ということには変わりなく、親権は母親のみとなります。
相続権がない
証明となる遺言書を作成していない場合、相続権がなく、法廷相続人になることができないのです。また、相手名義である預金や不動産等の遺産を受け取ることができず、相続税控除も受けられません。
それに伴う贈与税においても、配偶者控除を受けることができません。
事実婚をするならチェックしておきたい5つのこと
法律婚ではスムーズに行くことでも、事実婚の場合、いくつかの事前の確認が必要なことがあります。事実婚をするならチェックしておきたいことをまとめましたので、ぜひ、それぞれ確認をしてくださいね。
1.保険会社や勤務先の扱い
事実婚を選ぶ場合、会社の家族手当が利用できるかは、会社規定を事前に確認しておきましょう。保険会社にも前もって、事実婚のパートナーが受取人として認められるかどうかもチェックしておきましょう。
2.医療措置が必要な場合に備える
事実婚の相手が、手術をするなどの医療措置が必要な場合、同意書にサインが必要となります。その際、法律上の配偶者ではないため、サインが認められないことがあります。
そのような場合のため、夫婦関係を証明することができる公正証書を作成しておくか、パートナーシップ制度を活用するなどして、備えておきましょう。
パートナーシップ制度に明記しておきたい項目
- 同居や婚姻の意思
- 扶養義務の有無や生活費の負担
- 貞操行為があった場合
- 関係を解消した場合の財産分与
- 慰謝料について
この制度を利用すると、宣誓書や確認書を得ることができるため、住宅ローンを組む際や保険会社へ提出できる証明となります。
3.事実婚契約書を公正証書
公証役場で発行することができる公正証書の作成もよいでしょう。夫婦が話し合いで決めたことを事実婚誓約書として記録しましょう。
4.子どもがいる場合、認知届を提出する
子供が産まれた場合、子供は必然的に母親の籍に入ります。出生届と同時に認知届の提出もしておくことをおすすめします。認知をした時点で、扶養義務が発生します。
5.マイホームの名義
家を買うことを検討している場合は注意が必要です。住宅ローンを組む際、戸籍上他人である二人でローンを組むことは難しいのが現状です。入籍を条件とした融資であることがほとんどです。
ですので、二人でお金を出し合う共有名義にするか、現金で支払うか等になりますので、いずれも事前に二人で話し合っておきましょう。
※事実婚であってもペアローンなど、融資が可能なローンを提案している銀行もありますので、お二人の考えに沿った選択をしてくださいね。
事実婚を選ぶ前に二人でチェックすべきことを話し合おう
事実婚とは、婚姻の意思を持っている二人が夫婦として暮らしていますが、婚姻の届け出をしていないことを指します。結婚の形も多様化し、自分たちの望む夫婦の形を選べるようになってきました。
ですが、日本の制度上においても、いまだ事実婚への理解が深まっていないのが現状といえます。法律婚と事実婚では、違いがあり認められていないことがいくつかあります。
ですから、事実婚の定義や事実婚の意味を理解しておくのも重要です。お二人が何を大切にし、優先したいのかをよく話し合って、自分や周りも幸せな選択を選んでくださいね。